民間企業の事業主が利用する企業版ふるさと納税制度は、一般的なふるさと納税と細かなルールが違います。
企業版ふるさと納税制度には寄付金が地方創生の実現・法人税の最大9割控除・最低寄付金10万円の底ハードル・CSR・SDGsで自社のネームバリュー向上など多岐に渡るメリットがあります。
しかし寄付金額に関わらず返礼品が受領できない・自社本社の地方自治体へ寄付できない・寄付先公共団体が地方交付税対象などのデメリットがあり、事業主が希望する地方自治体に寄付できない・どこの地方自治体へ寄付すればいいか判断に迷うケースもあります。
また現在企業版ふるさと納税制度の法人税控除は令和6年まで延長されることが確定していますが、その後は継続される保証はなく改正前の最大上限控除6割に戻らないとも限りません。
この記事では3つの企業版ふるさと納税制度の支援事業事例をお伝えしますので、実例を参考にして企業版ふるさと納税制度を利用する際の判断材料にしていただければ幸いです。
- 企業版ふるさと納税制度は2016年に制度化された地方創生応援税制
- 企業版ふるさと納税制度は令和6年までの期限付き制度
- 企業版ふるさと納税制度を活用すれば最大9割法人税を削減できる
- 企業版ふるさと納税制度の最低寄付金額は10万円
- 企業版ふるさと納税制度は返礼品の受領は禁止されている
企業版ふるさと納税制度とは
企業版ふるさと納税制度は2016年に内閣が地方創生応援税制として制定し、現在も延長・改正されている納税制度です。
私たちの身近にある地域社会の経済活動を促進し日本全体の経済力を向上させる目的で、民間企業が地方の公共団体に寄付金を贈与する制度です。
また事業主が毎年納税する法人税は、企業版ふるさと納税制度を上手く活用することで最大9割控除されるため、実質1割負担で法人税を支払う節税制度としても機能します。
現在企業版ふるさと納税制度は令和6年まで延長されることが確定していますが、期間を過ぎると法人税控除上限が改正前の最大6割に戻されたり、それ以下の控除割合になるリスクも拭いきれません。
現状9割の法人税上限控除が6割に戻れば、企業版ふるさと納税制度を申請する事業主の精神的なハードルが上がることは避けられないため、早めの制度活用を検討した方がいいかもしれません。
地方創生応援税制として2016年スタート
地方創生応援税制とは別名を企業版ふるさと納税とも呼び、内閣府地方創生推進事務局が2016年にスタートした税制です。
地方創生応援税制は人口減少の回避・地域社会の活力維持による「地方創生」を目的に制定され、主に民間企業をターゲットに絞った寄付金を財源として機能しています。
- 企業版ふるさと納税制度は地方創生を目的として2016年スタートした税制
※主な財源は民間企業の寄付
地方創生応援税制は経済活動の根幹を支える地方経済を活性化させ、日本の経済力を維持・向上させることをメインテーマとした応援税制です。
企業版ふるさと納税制度では内閣府が準備した地域再生計画の実現のため、税額控除を優遇し民間企業が寄付に参加しやすいルールが整備されています。
法人税の特例的減税措置ができ9割控除で実質負担は1割
企業版ふるさと納税制度の魅力的な制度のひとつが、法人税の特例的減税措置による減税です。
企業版ふるさと納税制度では2020年以降からルールが改正されており、現在は民間企業が最大で法人税の9割控除を受けることができます。
- 企業版ふるさと納税制度は民間企業の節税対策として活用できる
※2020年以降は法人税が最大9割控除される
法人税の控除割合は寄付する地方自治体の地方創生応援税制により異なりますが、うまくいけば企業版ふるさと納税制度活用で支払う法人税が実質1割負担という大きなメリットがあります。
2020年以前は最大で法人税が最大6割しか控除されなかったので、企業版ふるさと納税制度で法人税の節税を見送る民間企業もありました。
しかし法人税の9割控除を導入したことで、現在は多くの民間企業が積極的に企業版ふるさと納税制度で法人税の節税を実現しています。
税額控除はいつまで?令和6年度までの期限付きの特別措置
もし民間企業の事業主の方で企業版ふるさと納税制度の利用を迷っている場合、制度の利用を急いだ方がいいかもしれません。
- 特例的減税措置で9割控除の適用期限は令和6年度まで
※令和7年以降は9割控除が廃止されるリスクもある
現在企業版ふるさと納税制度は延長という形で機能しており、制度改正後は適用期限を5年間延長し令和6年度まで確定している状態です。
以下の見直しを行った上、適用期限を5年間延長(令和6年度まで)する。
税額控除の割合を現行の2倍に引上げ、税の軽減効果を最大約9割(現行約6割)に
※ 令和2年4月1日以後に開始する法人(寄附企業)の事業年度から適用
現在確定している情報は「法人税の特例的減税措置は令和6年度まで延長される」という事実だけで、その後同じく法人税の9割控除が継続される保証はありません。
企業版ふるさと納税制度のメリット
企業版ふるさと納税制度は地方創生による地方自治体の支援活動に携われる他に、事業主が民間企業を経営するための多くのメリットを受けることができます。
例えば寄付金の最低金額が10万円と少額でありながら、企業版ふるさと納税制度により法人税の控除を受けることができます。
法人税は事業継続の大きな負担になるため、手軽な法人税の節税対策として企業版ふるさと納税制度を活用するケースが多く見られます。
また自社の資本活動だけでなく、地域社会に貢献することで事業活動を社会全体にアピールすることで、自社のネームバリューを高めることができます。
意外かもしれませんが、企業版ふるさと納税制度は寄付金の支援だけでなく、人材派遣として寄付先の公共団体先に雇用される地域支援もあります。
スキルを持つ優秀な人材確保・民間企業の雇用促進にも一役買っている納税制度として、地域社会を労働力の面でも支えています。
災害で被災した地域の支援活動の資金調達方法としても、企業版ふるさと納税制度が有効活用されており、被災地の復興を加速させるツールとしても有効活用されています。
寄付は10万円からできて、控除も受けられ税金対策に有効
企業版ふるさと納税の寄付金額は10万円と少額となり、民間企業が利用しやすい地方創生応援税制です。
- 企業版ふるさと納税は最低10万円寄付から利用できる税金対策
※法人税の控除割合は寄付金額・申し込む制度で違う
寄付は民間企業の本社がある都道府県以外であれば、原則どこでも企業版ふるさと納税制度を申請し寄付することができます。
毎年納税する法人税は少しでも削減したいと考える事業主は多く、企業版ふるさと納税制度の主な目的を法人税のコスト削減として考えています。
企業版ふるさと納税制度を有効活用できれば、地方自治体の企業に寄付が入ることで地域経済が活性化し、なおかつ民間企業は税金のコストダウンができるWin-Winの関係が実現します。
社会貢献ができ、CSR・SDGsとして社外へのアピールできる
企業版ふるさと納税で寄付することで、地域社会の経済活動が活性化され社会貢献が実現します。
民間企業の経済活動が自社の利益追求だけでなく、社会活動として行政が推進する地方創生を支援する資金として活用されています。
- 企業版ふるさと納税制度はCSR・SDGsとしての活動実績になる
※地方創生応援税制に参加することで実績を社外にアピールできる
近年大企業だけでなく民間企業でも、CSR・SDGsなどの社会活動を通して自社のブランディングを図る企業が増えています。
資本活動の幅を広げるために地域社会という大きなコミュニティの中で役割を果たすことは、自社の活動実績やネームバリューを高める行動にもなるのです。
CSR・SDGsのような大きな視点で企業活動を考えたとき、企業版ふるさと納税制度は民間企業にとって有益な広告ツールとしても機能するでしょう。
人材派遣型もあり地方創生へも貢献できる
企業版ふるさと納税制度は単に寄付金活動に留まらず、民間企業の技術力・開発力などのスキルを提供する支援活動も含まれます。
- 企業版ふるさと納税制度は人材派遣型として民間企業の雇用促進・地方創生になる
※寄付を受けた公共団体が人材派遣として民間企業の人材を雇用する
民間企業が企業版ふるさと納税制度で寄付をした見返りとして、寄付先の公共団体が派遣として民間企業の人材を雇うケースがあります。
この人材派遣型の雇用のメリットは、公共団体は専門的なスキルをもつ社員の確保・民間企業は派遣先で企業活動や人件費削減という、双方にとって都合が良い制度になっています。
また雇用が促進され事業計画が前進することで、内閣府が目標としている地方創生推進を着実に実行できるという本筋のメリットもあります。
被災地へ納税することで復興への協力ができる
被災地など支援や人材が足りない場所の復興にも、企業版ふるさと納税制度は有益に機能しています。
- 企業版ふるさと納税制度は災害支援制度としても活用される
※豪雨災害・地震災害など有事の支援金として機能する
過去に起きた東日本大震災では、未曾有の災害被害として多くの地域社会・経済活動に甚大な悪影響を与えました。
このときも多くの民間企業が企業版ふるさと納税制度を活用し、人材派遣や寄付金活動で被災地の復興に貢献しました。
また被災後の観光業などの業績悪化など、2次的な被害を復旧させる取り組みにも民間企業の寄付金が活用されています。
災害復興の一環として民間企業の納税制度が使われることは、地方創生推進の根幹をなす事業活動であり、企業版ふるさと納税制度が名ばかりの有名無実な制度ではないことが実証されています。
企業版ふるさと納税制度メリットはない?デメリット
企業版ふるさと納税制度に大きな魅力を感じる事業主がいる一方、そこまで積極的に企業版ふるさと納税制度にメリットを感じない事業主もいます。
その理由を精査してみると、返礼品・寄付地域・税金控除対象の3つのファクターがあり、個人版ふるさと納税と比較してしまうことも影響しているようです。
ひとつめは企業版ふるさと納税制度には、寄付金額に応じた返礼品の受領が認められないことを、ネガティブに感じている事業主が多いことが挙げられます。
返礼品はふるさと納税を代名詞ともいえるメリットですが、対象が個人寄付に限定されるため企業として返礼品を受け取ることはできません。
ふたつめは自身の事業本社がある地方自治体を寄付先に選べないという制約によるものです。
地方創生を活動エリアの地方自治体で実現させたいと思う事業主にとって、この規制は企業版ふるさと納税制度を迷うひとつの要因になっています。
三つめは寄付を希望する地方公共団体が地方交付税を受けていない場合、寄付をしても法人税の控除対象外となるリスクによるものです。
多くの事業主が法人税の控除目的で企業版ふるさと納税制度を活用しているため、寄付先の公共団体選びに迷うことも懸念材料になっています。
個人ふるさと納税と違い返礼品はもらえない
ふるさと納税と聞くと多くの人が寄付金額の返礼として貰える、返礼品を思い浮かべるでしょう。
しかし民間企業がふるさと納税をおこなう場合は、個人版ふるさと納税のメリットである返礼品の受領は認められていません。
- 企業版ふるさと納税制度は個人の寄付と違い返戻金がない
※返礼品が貰えるのは個人ふるさと納税だけ
返礼品はふるさと納税を検討する大きな動機になるため、個人と同様に民間企業も返礼品を貰えると勘違いするとトラブルになるので注意してください。
規約で認められている返礼行為は「感謝状」「社会通念上許容される範囲内で記念品」などに限定され、個人版ふるさと納税で贈与されるような返礼品は規約違反に該当します。
これは公共団体と民間企業が利益前提で企業版ふるさと納税制度を利用することで、相互が癒着関係となり健全な地方創生推進の妨げになることを阻止することが目的です。
本社がある自治体への寄付は対象とならない
企業版ふるさと納税制度のルールのひとつに、民間企業が本社を置く地方自治体への寄付ができないという規定があります。
- 本社のある地方自治体へ寄付は企業版ふるさと納税制度の対象外
※制度を通さず寄付金を贈与することは可能
地方創生を自身の事業本社が在籍する地方自治体で実現したいと思う事業主は少なくありません。
しかし民間企業が活動する地方自治体の支援を希望しても、企業版ふるさと納税制度を通して贈与することは認められず、贈与は個人的な寄付に限定されてしまうので注意してください。
企業版ふるさと納税制度は日本というコミュニティで、ボーダーレスに地方創生推進に貢献できる制度です。
そのため都道府県の枠を超え多くの地方自治体へ寄付金を贈与できることが、贈与先をどこにするか判断に困るなどマイナスに作用することもあります。
地方交付税を受けていない自治体は対象外となる可能性もある
これから企業版ふるさと納税制度を申請しようとしている事業主は、寄付先の地方自治体が地方交付税を受けているか確認してから利用してください。
- 地方交付税の対象外の地方自治体への企業版ふるさと納税制度は控除不可
※法人税の節税目的で寄付しても控除対象外となる可能性が高い
地方交付税は、本来地方の税収入とすべきであるが、団体間の財源の不均衡を調整し、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるよう財源を保障する見地から、国税として国が代わって徴収し、一定の合理的な基準によって再配分する、いわば「国が地方に代わって徴収する地方税」 (固有財源)という性格をもっています。
(引用:総務省|地方財政制度|地方交付税)
地方自治体によっては行政が規定する税金の負担・再分配を受けていない団体があり、寄付金先を地方交付税に該当しない団体に選んでしまうと、高い確率で法人税の控除を受けることができません。
この場合は寄付金が地域創生に繋がることはあっても、企業版ふるさと納税制度が法人税の節税対策として機能することはありません。
企業版ふるさと納税の事例
企業版ふるさと納税制度が実際にどのような地方創生に役立つのか、納税制度を申請する前に実例を確認しておきましょう。
この記事では岩手県・沖縄県・日本を含む世界規模の視点で、鉄道支援事業・サンゴ礁保護事業・脱炭素支援事業の3つを挙げます。
ひとつめは岩手県の「東日本大震災からの復興に向けた鉄道活性化」事業では、震災で復旧が遅れている鉄道関連事業に企業版ふるさと納税制度の寄付金を充て、スムーズな事業資金確保・人材確保を実現させました。
ふたつめは沖縄県では読谷村を中心に14kmの周辺海域に生息するサンゴ礁保護事業で、民間企業の寄付金が的確に自然保護活動の資金として利用されています。
三つめは世界中で問題となっている地球温暖化を解決する目的で、ヤフー株式会社が推進する「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」事業として脱炭素化を目指し二酸化炭素排出を軽減する事業支援に民間企業の寄付金が使われています。
岩手県の東日本大震災からの復興に向けた鉄道活性化
岩手県では過去の東日本大震災からの復興を目的とした、企業版ふるさと納税制度を導入しています。
- 岩手県では鉄道整備事業により観光・生活環境が整備され地域創生が実現
※震災被害の復興資金として民間企業の寄付金が有効活用されている
東日本大震災の影響は未だ被災地域の経済活動に深い爪痕を残しており、企業版ふるさと納税制度として集められた寄付金が、岩手県では鉄道事業を中心に利用されています。
鉄道は地域社会の生活や観光産業のライフラインであり、民間企業の寄付金により震災後の復旧事業を迅速に進めることが可能になりました。
特に三陸鉄道の整備は観光客の集客にも重要な要素であり、岩手県と全国・海外を繋ぐ必須の公共交通機関を充実させることで地域経済の活性化を実現しています。
沖縄県読谷村のサンゴ礁を守る支援
沖縄県読谷村では企業版ふるさと納税制度で集めた資金を元に、14kmに及ぶ周辺海域に生息するサンゴ礁の保護活動がおこなわれています。
- 民間企業のふるさと納税が沖縄県のサンゴ礁保護活動を支えている
※慈善団体では確保が難しい支援金を企業版ふるさと納税制度が担う
地球温暖化が原因でオニヒトデが増えたことで、沖縄県全域でサンゴ礁が深刻な食害被害を受けています。
サンゴ礁生息域の確保のため大規模な移植事業が進められていますが、実はこの活動資金は企業版ふるさと納税制度の寄付金が主な財源です。
寄付金額に応じてサンゴの移植株を増やせる仕組みを導入し、寄付した人が「自分も一緒にサンゴ礁を守る活動に参加している」という実感を持ちやすい支援活動が展開されています。
Yahoo! JAPANの地域カーボンニュートラル促進プロジェクト
ヤフー株式会社が推進するYahoo! JAPAN「地域カーボンニュートラル促進プロジェクト」では、二酸化炭素の排出を削減する事業活動を実施し、地球温暖化を防止するCSRに企業版ふるさと納税制度が活用されています。
- Yahoo! JAPAN地域カーボンニュートラル促進プロジェクトの財源元はふるさと納税
※地球温暖化対策事業としてCSRで社会貢献
脱炭素化事業は二酸化炭素を削減することで温室効果ガスの発生を防ぎ、地球温暖化防止や環境問題の改善を目指します。
近年二酸化炭素の排出量増加化が問題視されており、カーボンニュートラルを促進することで日本だけでなく世界規模で社会貢献活動を実現しています。
このように企業版ふるさと納税制度の寄付金は日本・世界中の社会的・経済的・環境的な問題解決のために有効活用されています。
この記事の監修税理士 |
小池 繫男 |
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事務所名 | 税理士法人船津会計 |
資格 | MBA、税理士、宅建物士 |
備考 | WEBメディア監修 -企業版ふるさと納税制度とは? |
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